所有者不明土地の解消に向けて、不動産に関するルールが大きく変わりました。(出所 法務省民事局)
1.所有者不明土地とは?
相続登記がされない等により、以下のいずれかの状態となっている土地
①不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない土地
②所有者が判明しても、その所在が不明で連絡が付かない土地
全国のうち所有者不明土地が占める割合は九州本島の大きさに匹敵するともいわれています。
| 全国における所有者不明土地の割合(R6国土交通省調査) 全国の土地の23%が所有者不明土地であり、その原因の内訳は、 ・相続登記の未了が63% ・住所変更登記の未了が29% |
2.どんな問題が生じているのか?
土地の所有者の調査に多大な時間と費用が必要となり、公共事業や復旧・復興事業が円滑に進まず、民間取引や土地の利活用の阻害要因となったり、土地が管理されず放置され、隣接する土地への悪影響が発生したりするなど、様々な問題が生じています。
これらの問題の解消に向けて、不動産に関する法律が改正されました。
3.法律改正のポイント
令和3年4月21日、「民法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第24号)及び「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(令和3年法律第25号)が成立(令和3年4月28日公布)し、令和5年4月から段階的に施行されています。
特に、国民に義務付けられたルールとして、①相続登記の義務化 ②住所等変更登記の義務化 が創設され、いずれも申請期間と過料のルールができました。
4.不動産の登記がされるようにするための不動産登記制度の見直し
1)相続登記の義務化(令和6年4月1日施行) 【不登法76条の2】
相続人は、不動産(土地・建物)を相続で取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければなりません。
また、遺産分割で不動産を取得した場合も、別途、遺産分割が成立した日から3年以内に、遺産分割の内容に応じた登記の申請をしなければなりません。
⇒いずれの場合も、正当な理由がないのに義務に違反した場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。
令和6年4月1日より前に相続した不動産についても、相続登記がされていないものについては、義務の対象となり、令和9年3月31日までに相続登記をしなければなりません。
2)相続人申告登記(令和6年4月1日施行) 【不登法76条の3】
自らが登記簿上の所有者の相続人であること等を期限内(3年以内)に登記官に申し出ることで、義務を履行することができます。登記官は、所要の審査をした上で、申出をした相続人の氏名・住所等を職権で登記に付記します。
<留意点>
・遺産分割に基づく相続登記の申請義務を履行することはできません。
・不動産についての権利関係を公示するものではないため、相続した不動産を売却したり、抵当権の設定をしたりするような場合には、別途、相続登記をする必要があります。
※このような留意点があることから、相続人申告登記は、直ちに遺産分割や相続登記の申請をすることが難しい場合などに、義務を果たすために利用できることが想定されます。
3)その他の改正事項(令和6年4月1日施行)
●登記簿に記載する事項の追加 【不登法73条の2】
・法人を所有者として登記する場合は会社法人等番号
・海外居住者を所有者として登記する場合は国内連絡先
●旧姓(旧氏)・ローマ字氏名併記 【不登規158条‐31~37】
・氏名に旧姓(旧氏)の併記を希望する所有者を登記する場合は旧姓(旧氏)
・外国人を所有者として登記する場合はローマ字氏名を併記
●DV被害者等の保護のための登記事項証明書等の記載事項の特例
4)所有不動産記録証明制度(令和8年2月2日施行) 【不登規195条】
亡くなった方が所有していた不動産について、どこにどれだけあるかを相続人が把握しきれず、相続登記がされないまま放置されてしまう事態が発生していることが指摘されていました。
そこで、登記官において、特定の被相続人が登記簿上の所有者として記録されている不動産を一覧的にリスト化し、証明書として交付する制度が新たに設けられました。
これにより、相続する不動産を把握しやすくなるため、相続登記の手続きがスムーズになり、登記漏れを防ぐことにもつながります。
証明書は、全国どこの法務局にでも、書面又はオンラインで請求できます。書面で請求する場合は郵送での請求もできます。
●請求することができる者
①登記簿上の所有者本人 ②相続人その他の一般承継人
●手数料
1つの検索条件につき、1通当たりの手数料
①書面請求 1,600円
②オンライン請求 郵送交付 1,500円
窓口交付 1,470円
例)検索条件を4件指定し、証明書の請求通数を1通とした場合
4検索条件×1通×1,600円=6,400円(書面請求の場合)
5)住所等変更登記の義務化(令和8年4月1日施行) 【不登法76条の5】
①住所や名前の変更登記が義務化された背景
これまでは、引っ越しや会社の移転、結婚などによって登記簿上の所有者の住所や名前に変更が生じたとしても、その変更登記は任意であること、また、引っ越し等のたびに所有者が変更登記の手続きをすることは、費用や手間の面で負担があることから、放置されがちであることが指摘されていました。
しかし、所有者不明土地の発生原因の約3分の1を住所変更登記の未了とされていることを踏まえ、相続登記に続き、住所等変更登記も義務化されました。
②住所等変更登記の義務化の内容
登記簿上の所有者は、住所や名前に変更が生じた日から2年以内に、その変更登記をしなければなりません。
正当な理由がないのに義務に違反した場合、5万円以下の過料が科される可能性があります。
令和8年4月1日より前に住所や名前に変更が生じていた場合でも、住所等の変更登記がされていないものについては、義務の対象となります。この場合、令和10年3月31日までにその変更登記をしなければなりません。
6)スマート変更登記(登記官の職権による住所等変更登記)(令和8年4月1日施行)
【不登法76条の6】
住所等変更登記の手続きの簡素化・合理化を図る観点から、登記官が他の公的機関から取得した情報に基づき、職権で住所等の変更登記をする仕組み(スマート変更登記)が始まりました。
ただし、自然人(個人)の場合には、事前に住基ネットからの情報取得に必要な検索用情報(生年月日)の申出をしていただく必要があります。また、職権での変更登記がされるのは、本人の了解があるときに限られます。
法人の場合には、商業・法人登記システムとの連携に必要となる会社法人等番号が不動産の登記簿に登記されているときに限られます。
5.土地を手放すための制度
1)相続土地国庫帰属制度の創設(令和5年4月27日施行)
【相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律】
①制度創設の背景
都市部への人口移動や人口の減少・高齢化の進展などを背景に、土地の利用ニーズが低下する中で土地所有に対する負担感が増加しており、相続された土地が所有者不明土地の予備軍となっているといわれています。
そこで、所有者不明土地の発生予防の観点から、相続等によって土地の所有権を取得した相続人が、法務大臣(窓口は法務局)の承認により、土地を手放して国庫に帰属させることを可能とする制度が新たに創設されました。
②申請できる人
基本的に、相続や遺贈によって土地の所有権を取得した相続人であれば 申請可能です。制度の開始前に土地を相続した方でも申請することができますが、売買等によって任意に土地を取得した方や法人は対象になりません。
また、土地が共有地である場合には、相続や遺贈によって持分を取得した相続人を含む共有者全員で申請する必要があります。
③引き取り対象外の土地
次のような通常の管理又は処分をするに当たって過大な費用や労力が必要となる土地については対象外となります。
<対象外の例>
・建物、工作物、車両等がある土地
・通路など他人による使用が予定される土地
・危険な崖がある土地
・境界が明らかでない土地
・担保権などの権利が設定されている土地
・土壌汚染や埋設物がある土地
④手続きに必要な費用
申請時に審査手数料(一筆当たり14,000円)を納付するほか、国庫への帰属について承認を受けた場合には、負担金(10年分の土地管理費相当額)を納付する必要があります。
<負担金算定の具体例>
| 宅地 | 面積にかかわらす、20万円 ただし、一部の市街地(注1)の宅地については、面積に応じ算定(注2) |
| 田、畑 | 面積にかかわらす、20万円 ただし、一部の市街地(注1)、農用地区域等の田、畑については、面積に応じ算定(注2) |
| 森林 | 面積に応じ算定(注2) |
| その他 (雑種地、原野等) | 面積にかかわらす、20万円 |
注1)都市計画法の市街化区域又は用途地域が指定されている地域
注2)面積の単純比例ではなく、面積が大きくなるにつれて1m²当たりの負担金は低くなる。
⑤申請から、結果が出るまでの期間
標準処理期間は8カ月ですが、事案によってはそれより長くかかること があります。
⑥相談に必要な資料
・登記事項証明書又は登記簿謄本
・土地の現況、全体がわかる画像又は写真
・法務局で取得した地積測量図
・法務局で取得した地図又は公図
・市町村から届く固定資産税納税通知書
・その他土地の測量図面
6.土地利用に関連する民法のルールの見直し
1)土地・建物に特化した財産管理制度の創設(令和5年4月1日施行)
所有者不明土地・建物や管理不全状態にある土地・建物は、公共事業や民間取引を阻害したり、近隣に悪影響を発生させたりするなどして問題となりますが、これまで、その管理に適した財産管理制度がなく、管理が非効率になりがちでした。
そこで、土地・建物の効率的な管理を実現するために、所有者が不明であったり、所有者による管理が適切にされていなかったりする土地・建物を対象に、個々の土地・建物の管理に特化した財産管理制度が新たに設けられました。
①所有者不明土地・建物の管理制度 【民法264条の2】
調査を尽くしても所有者やその所在を知ることができない土地・建物に ついて、利害関係人が地方裁判所に申し立てることによって、その土地・建物の管理を行う管理人を選任してもらうことができるようになりました。
②管理不全状態にある土地・建物の管理制度 【民法264条の9】
所有者による管理が不適当であることによって、他人の権利・法的利益が侵害され又はそのおそれがある土地・建物について、利害関係人が地方裁判所に申し立てることによって、その土地・建物の管理を行う管理人を選任してもらうことができるようになりました。
2)共有制度の見直し(令和5年4月1日施行)
共有状態にある不動産について、所在等が不明な共有者がいる場合には、その利用に関する共有者間の意思決定をすることができなかったり、処分できずに公共事業や民間取引を阻害したりしているといった問題が指摘されていました。
また、所有者不明土地問題をきっかけに共有物一般についてのルールが 現代に合っていないことが明らかになりました。
そこで、共有物の利用や共有関係の解消をしやすくする観点から、共有制度全般について様々な見直しが行われました。
①共有物を利用しやすくするための見直し 【民法252条】
●共有物につき軽微な変更をするために必要な要件が緩和されました。
(全員の同意は不要で、持分の過半数で決定可)
●所在等が不明な共有者がいる場合には、他の共有者は、地方裁判所に申し立て、その決定を得て、
・残りの共有者の持分の過半数で、管理行為をすることができます。
(例:共有者の中から使用者を1人に決めること)
・残りの共有者全員の同意で、変更行為をすることができます。
(例:農地を宅地に造成すること)
②共有関係の解消をしやすくするための新たな仕組みの導入 【民法252条の2】
所在等が不明な共有者がいる場合には、他の共有者は、地方裁判所に申し立て、その決定を得て、所在等が不明な共有者の持分を取得したり、その持分を含めて不動産全体を第三者に譲渡することができます。
3)相隣関係の見直し(令和5年4月1日施行)
隣地の所有者やその所在を調査しても分からない場合には、隣地の所有 者から隣地の利用や枝の切取り等に必要となる同意を得ることができないため、土地の円滑な利活用が困難となります。
そこで、隣地を円滑・適正に使用することができるようにする観点から、相隣関係に関するルールの様々な見直しが行われました。
①隣地使用権のルールの見直し 【民法209条】
境界調査や越境してきている竹木の枝の切取り等のために隣地を一時的に使用することができることが明らかにされるとともに、隣地の所有者やその所在を調査しても分からない場合にも隣地を使用することができる仕組みが設けられました。
②ライフラインの設備の設置・使用権のルールの整備 【民法213条の2】
ライフラインを自己の土地に引き込むために、導管等の設備を他人の土 地に設置する権利や他人の所有する設備を使用する権利が明らかにされるとともに、設置・使用のためのルール(事前の通知や費用負担などに関するルール)も整備されました。
③越境した竹木の枝の切取りのルールの見直し 【民法233条】
催促しても越境した枝が切除されない場合や竹木の所有者やその所在を調査しても分からない場合等には、越境された土地の所有者が自らその枝を切り取ることができる仕組みが整備されました。
4)遺産分割に関する新たなルールの導入(令和5年4月1日施行)
相続が発生してから遺産分割がされないまま長期間放置されると、次の相続が繰り返されて多数の相続人による遺産共有状態となる結果、遺産の管理・処分が困難になります。
また、遺産分割をする際には、法律で定められた相続分(法定相続分)等を基礎としつつ、個別の事情(例えば、生前贈与を受けたことや療養看護等の特別の寄与をしたこと)を考慮した具体的な相続分を算定するのが一般的です。
しかし、長期間が経過するうちに具体的相続分に関する証拠等がなくなってしまい、遺産分割が難しくなるといった問題があります。そこで、遺産分割がされずに長期間放置されるケースの解消を促進する仕組みが新たに設けられました。
①長期間経過後の遺産分割のルール 【民法904条の3】
被相続人の死亡から10年を経過した後にする遺産分割は、原則として、具体的相続分を考慮せず、法定相続分又は指定相続分によって画一的に行うこととされました。
令和5年4月1日(法施行日)までに相続が開始した場合でも、具体的相続による遺産分割ができるのは、基本的に、相続開始から10年間に限られます。
ただし、令和5年4月1日の時点で、既に相続開始から5年を超える期間が経過していた場合、令和10年3月31日までの間は、具体的相続分による遺産分割をすることができるよう、猶予期間が設けられています。
●令和5年4月1日時点で相続開始から5年以内 ・・・猶予期間の適用なし
●令和5年4月1日時点で相続開始から5年超10年未満・・・猶予期間の適用あり
●令和5年4月1日時点で相続開始から10年以上経過・・・猶予期間の適用あり
尚、相続開始から10年を経過するまで(猶予期間の対象となる場合は、令和10年3月31日まで)に家庭裁判所に遺産分割の請求(調停や審判の申立て)をすれば、具体的相続分による遺産分割をすることができます。
また、10年経過後も、相続人全員が合意すれば、具体的相続分による遺産分割をすることは可能です。
令和6年4月1日から、相続登記が義務化され、遺産分割による不動産の所有権を取得した者は、遺産分割をした日から3年以内に遺産分割の内容に応じた所有権の移転の登記の申請をすることが義務付けられました。
令和6年4月1日より前に遺産分割をされた場合でも、令和9年3月31日までに登記の申請をすることが義務付けられました。

